症例 5

症例:71歳 女 フレムメルト保存液処理蓄痰

経緯:他院にてITP(特発性血小板減少性紫斑病)でfollow up中血痰があったため、喀痰細胞診が施行され、扁平上皮癌と判定された。 胸部X−Pでも左S6に腫瘍陰影を認めたため、当院胸部外科を紹介され、左下葉切除術が施行された。


提供施設スライド

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判定:C 反応性病変

化膿性炎症所見を背景に多数の扁平上皮系異型細胞が集団で、あるいは孤立散在性にみられる。集団を形成しているものでは相互封入像を伴い、増殖の盛んな事を示唆している。核は増大し、大小不同性、核型不整、クロマチン増量がみられる。核小体の腫大したものもある。 しかし、核間距離は均等で、さらに細胞質は軽度に肥厚しているものの、正常に近い分化を示していて悪性細胞とは言い難い。 孤立散在性に出現している細胞では、核異型は軽度から中等度で、細胞質は、ライトグリ−ンあるいはエオシン、オレンジGに濃く染まり、一部層状構造を思わせるものもある。しかし、いずれも扁平上皮癌細胞に見られる様な、高度の核異型、細胞質の重厚さは認められない。反応性病変(再生上皮)由来か?異形成上皮由来を考えるが、後者では通常核小体を認めないので、今回の所見と合致しない。したがって、非腫瘍性の異型細胞(再生上皮細胞)と考えた。  また、化膿性炎症性背景と共に、異物型巨細胞やライトグリ−ンに染まる硝子様物質が見られた。


事前鏡検施設スライド

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判定:D 口腔あるいは咽頭,喉頭のsevere dysplasia

細胞質の層状構造,核膜の不整や,やや肥厚の見られるライトグリーン好性の異型細胞が認められる.相互封入像も見られる.オレンジG好性で,核形不整な異型細胞も散見されるが,光輝性に乏しい.いずれもクロマチン増量は軽度である. 細胞集塊で出現している異型細胞も見られ,それらを構成している異型細胞はいずれも核腫大や核膜の不整,核膜の肥厚,著明な核小体を有しており,細胞質は層状でやや肥厚している.また,オレンジG好性で核濃縮の見られる細胞も混在しているが,細胞質の光輝性がやや乏しい.いずれもN/C比の上昇は軽度である.また,好中球を主体とした炎症細胞が多数見られるため,標本中に見られる異型細胞にもなんらかの反応性変化が伴っていると考える. 以上の所見から severe dysplasia 由来を考える.しかしながら標本中に alveolar macrophage が見られず,肺胞腔内から得られた検体とは考えにくく,咽頭あるいは喉頭の病変を疑う.


組織診断: Bronchitis with amyloid deposition

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講師解説 

剖検例の肺を検討していると基底膜上に存在する異型性を伴う扁平上皮の増殖病変にしばしば出くわす。今回症例提供施設の方は主に癌細胞との鑑別に主眼をおき反応性細胞を考えられた。今後はこの症例に観察された様な大型な異形成に関しては、異形成、高分化扁平上皮癌 等に関する理解を深め、それらに由来する細胞と多面的に鑑別することに努めることにより正確な判断が可能になると考えられます。

 (画像は拡大しません) 

アミロイド腫瘍であった。細気管支の入口部にアミロイドを認める。

細気管支入口部に観察された上皮内病変。軽い異型性を示す扁平上皮の増殖で、異型性を伴う扁平上皮化生と診断された。浸潤癌等は無かった。

喀痰細胞診標本中の異型細胞。細胞は大型であり、軽度異形成や高分化扁平上皮癌由来を疑うが、先に示した異形成(2002−1,2,3)や高分化扁平上皮癌(2002−4)由来の細胞に比し細胞質が厚く、異なった形態である。核異型軽い。

一見癌細胞を疑う細胞塊である。

小型な異型細胞で、中等度分化扁平上皮癌由来を疑う細胞である。しかし胞体は良く分化しており、核異型は軽い点で癌細胞とは判断できない。

同様に癌細胞を疑う中〜小型の異型細胞。今後このような症例と癌との鑑別が問題となる。