症例 3

症例の経緯:65歳 女性 9ヶ月前右乳房腫瘤を自覚し7ヶ月前に他院を受診し右CA領域に3cm大のhard massを触知、MMGでカテゴリー4、CTでもCancerが疑われ、穿刺吸引細胞診(FNA)2回施行。腫瘍内部からチョコレート色の液体が引けたが共にMalignancy(-)。精査目的で当院紹介され当院でもFNA2回施行。当院FNA標本を提供

標本作製法:生理食塩水にて穿刺針洗浄、オートスメア1500rpm5分後95%アルコール固定


初回細胞像

001 002 003 004 005 006
007 008 009 010 011 012

判定
提供施設:
Cysticな背景のなか細胞質泡沫状で核腫大,核形不整,核クロマチン増量したAtypical cellsが乳頭状集塊で多数認められた。一部集塊はCribriform patternに類似した所見がみられた。全体の所見として個々の細胞の異型は軽度だが集塊の二相性は明確ではなく悪性も否定できない所見。
良悪の判定及び組織型の確認をふまえ鑑別困難と判定した。

事前鏡検施設:検体は炎症性細胞、泡沫状の細胞を背景に比較的小型の上皮細胞が腺腔状ないし乳頭状の細胞集団を形成し多く見られます。中にn粘液分泌様ないしは変性様空胞を伴った細胞集団も認めます。但し、筋上皮様濃縮核を持つ細胞も認めます。細胞個々では、小型ですがN/C比中等度大、核クロマチン増量、核小体腫大を呈し、また一部核形不整を伴うものやICL様(断定できません)胞体内空胞も認めます。


2回目細胞像

013 014 015 016 017
018 019 020 021 022

判定
提供施設:
出現細胞数に多寡はみられるが初回FNAとほぼ同様な所見で鑑別困難と判定した。

事前鏡検施設:細胞量少数で、溶血様背景の中に前回見られた細胞集団を認めます。個々の細胞所見も前回同様ですが、中に核小体周囲明庭を呈したものも認めます。
以上より細胞は異型所見を持ち悪性が疑われますが、筋上皮と思われる核濃縮細胞の存在や、構成細胞が小型であること及び嚢胞様背景より良性腫瘍(Papilloma)の異型細胞変化も否定できません。鑑別困難であることより判定困難しました。


組織像

01 02 03 04 05
06 07 08 09  

最終組織診断:Secretory carcinoma

備考
再鏡検で、乳頭状の集塊及びCribriform patternに類似した所見と思われたのは、文献的記載から数個の腫瘍細胞が球状の粘液を取り囲む粘液小球状構造Mucous globular structure(MGS)そしてMGSが集合し重積を示した、いわゆる“ぶどうの房状構造”Grape like clustes of mucous globular structuresであった。
本症例は、個々の細胞異型は軽度でCribriform patternに類似した空胞状の所見、淡染性の豊富な細胞質を有する泡沫細胞類似の細胞を読みきれず鑑別困難と判定した。しかし、文献的記載からみると本症例は典型的な分泌癌の細胞像と思われた。
乳腺分泌癌は発生頻度が低いことや分泌物を持つ乳癌は他にもあることから、経験がないと細胞診のみでの判断は難しいと思われるが、粘液小球状構造やそれが集合し重積を示したいわゆる“ぶどうの房状構造”の細胞像を理解しておけば他の乳腺腫瘍との鑑別は決して難しくはなく、細胞診でも十分推定可能と思われた。