指定課題:泌尿器細胞診

集細胞法の違いが自然尿細胞診標本中の細胞に与える影響について


東海市民病院  今井律子(CT)
名古屋掖済会病院 夏目園子(CT)橋本政子(CT)高木里枝(CT)
深津俊明(MD)佐竹立成(MD)

【はじめに】

 移行上皮癌(TCC)G1,G2,G3由来の自然尿細胞診標本中に認められた細胞各20症例と移行上皮異形成、内反性乳頭腫、再生上皮等関連病変に由来する細胞の核の長径を1症例20個計測し、その平均値を求めた。核径計測の結果より長径約10?以上の核はTCCG2、G3に由来する細胞であり、その細胞判定は比較的容易である。しかし核の長径9?以下の細胞はTCCG1細胞を含むいわゆる小型移行上皮細胞(以下小型細胞と略す)で、その細胞判定は一般に困難である。

 今回、これらの小型細胞の細胞判定においてオートスメア法(A法)とフィルター法(F法)の2方法で差が生ずるか調査したので報告する。

【対象】

 2002年6月4日から7月12日の間に泌尿器科より提出された自然尿検体278検体を用いた。この中で小型細胞が出現する頻度はF法111検体40%、A法60検体22%であった。このうちF法、A法共に小型細胞を認めた37検体について両者における細胞所見の差を調査した。

Fig.1
自然尿 278検体
小型移行上皮細胞の出現頻度
フィルター法
111検体
40%
オートスメア法
60検体
22%
2法共に出現
37検体
13%
【方法】(スライド3,4)

 F法はサイトプレップ21(武藤化学社)を用いた。検体処理時間は1検体1分の設定で約10mlの尿が10秒間吸引される。通常のスライドガラスと同じ大きさのフィルタラーと呼ばれるアルミ製専用フィルターは(フィルター部分は直径2cm、フィルター孔は5ミクロン)吸引処理された後95%アルコールにて固定されPap.染色が施される。封入の際には表面をカバーガラスで封入の後裏側をポア消し封入して標本が作製される。

 A法はオートスメアCF12D(サクラ精機社)を用い、回転半径12cm(2000rpm5分)550Gで検体を処理した。

 これらの検体処理を経て作製された標本のうち両者に認められた小型細胞の核の長径、核所見、剥離形態を調査した。

【結果】
I,核径について(スライド5)

 F法、A法で認めたれた小型細胞5個以上20個以下の核の長径を計測し、その平均値を求めた。グラフに示すように37検体の長径の平均値はF法8.02?、A法7.73?となり、両者には良好な相関がえられた。

II,核所見について

 核所見は1),核形不整、2),核小体の有無、3),核クロマチンの性状について調査した。

 1),核形不整は3つに分類した。不整0:核形は円形ないし類円形(スライド6)、不整1+:核形の一部に不整のあるものや核溝、しわを認めるもの(スライド7)、不整2+:核に立体不整の認めるもの。核の立体不整は顕微鏡の焦点を動かして核の形が変化する場合を核の立体不整有りとした(スライド8,9)。核形不整の調査結果はF法、A法共に1+の頻度が高く両者に差はみられなかった(スライド10)。

核形不整
オートスメア
フィルター
5(14%)
1( 3%)
1+
25(68%)
28(75%)
2+
7(19%)
8(22%)
Fig.3 Fig.4
(スライド6)
  
(スライド7)
Fig.5    
(スライド8)
(スライド9)
 2),核小体について

 核小体の長径が核の長径10%以上の大きさの場合を核小体有りとして調査した。核小体の有無はF法、A法共に同様の頻度であり両者に差はみられなかった(スライド11)。

核小体
オートスメア
フィルター
有り
17
18
無し
20
19
3),核クロマチンの性状

 核クロマチンの性状は細顆粒状(スライド12)、顆粒状(スライド13)、濃縮変性(スライド14)、スリガラス様変性(スライド15)の4つに分類した。核クロマチンの性状は、細顆粒状がF法50%、A法15%、スリガラス様変性がF法19%、A法49%の頻度で認められ、この2点において両者に差がみられた(スライド16)。

核クロマチンの性状
オートスメア
フィルター
細顆粒状
7(15%)
24(50%)
顆粒状
8(17%)
6(13%)
濃縮変性
9(19%)
9(19%)
スリガラス様変性
23(49%)
9(19%)
計(のべ所見数)
47
48
Fig.3 Fig.4
(スライド12)
  
(スライド13)
Fig.5    
(スライド14)
(スライド15)
III,細胞の剥離形態について

 細胞の剥離形態は6個以上の細胞結合を集団、5個以下の細胞結合ないし孤在細胞を孤在として分類した。剥離形態はF法で集団が62%、A法では孤在が65%の頻度で認められ、F法では集団細胞、A法では孤在細胞の多いことが示された(スライド17)。

剥離形態
オートスメア
フィルター
集団
13(35%)
23(62%)
孤在
24(65%)
14(38%)
【まとめ】
 今回の調査ではF法とA法ではF法で核径が少し長くなる傾向があった。また、核クロマチンと剥離形態に差がみられた。したがって小型細胞を判定する上でF法では核クロマチンのスリガラス様変性が少なく、集団細胞で多くの細胞を標本に認めることは、その診断に有利と思われた。