46回日本臨床細胞学会スライドセミナー

症例1解説

 

京都大学病院病理部 三上芳喜

 

本例では円錐切除が施行され、扁平上皮高度異形成(CIN3)と上皮内腺癌の組織診断が確定した(photo-1)。すなわち、全層近くをN/C比の高い異型細胞で置換されながらもわずかに表層分化を示す異型重層扁平上皮(photo-2)に連続して、高度の核形不整と重積を示す異型腺上皮が、既存の頸管腺上皮を置換しながら下方に進展する像が認められた(photo-3)。核分裂像も散見された(photo-4)。破壊性間質浸潤はみられず、切除断端は陰性であった。患者が挙児希望であったため、子宮全摘ではなく経過観察が行われることになった。

スメアで認められた細胞集塊はN/C比の高い異型細胞から構成されているが、特定の配列を示さず、分化の方向を把握しにくいものが多い。しかし一部では集塊辺縁で細胞と核の扁平化がみられ、扁平上皮由来の異型細胞であることが認識可能である(photo-5)。著しい核の多形性や異常角化はみられない。さらに注意深く観察すると、核の重積を伴う柵状配列(photo-6)、ロゼット様集塊(photo-7)が認められる。背景が清明であることも考慮すると、CINと併存する上皮内腺癌が推定病変として挙げられよう。細胞診で上皮内腺癌と浸潤腺癌を判別することはある程度まで可能だが、治療方針の決定は円錐切除で組織学的に浸潤の有無、程度が確認された上でなされるのが一般的である。狙い生検は、初期の腺系病変では難しいこともあり、省略されることがある。近年子宮頸癌は減少傾向にあるが、腺癌は増加傾向にある。従って、その前駆病変である上皮内腺癌を検出することは重要で、これには細胞診が大きな役割を果たすといえる。上皮内腺癌の3060%でCINが併存すると報告されており、CINに対する生検ないし切除が契機となり、上皮内腺癌がみつかる例が稀でない。2つの病変が共存する可能性も想定して観察をすることが肝要である。