46回日本臨床細胞学会スライドセミナー

症例5解説

大阪府立成人病センター調査部疫学課 中山富雄

 

【臨床経過】70才代女性。軟部肉腫の術後の肺転移の有無を調べるため胸部CTを撮影したところ、偶然甲状腺レベルでの気管狭窄を指摘され、気管支鏡検査が試行された。

【内視鏡所見】声門直下気管前方からポリープ様病変が認められる(photo-1)。表面は凹凸不整で、約3cm下までこの変化は続いている。白苔は明らかではない。

【擦過細胞像】OGLG好染扁平上皮細胞を多数認める。背景に壊死を認めない。OG好染細胞には若干細胞質の光沢を認めるも、全体的に細胞質は希薄であり、N/C比は小さい。クロマチンの増量に乏しく、個々の核は明るい(photo-23,45)。

【解説】本症例は、気管に発生するポリープ様病変の鑑別である。気管発生肺癌はきわめてまれであり、大半は腺様嚢胞癌か食道がんの気管浸潤(気管中下後方からの浸潤)である。細胞所見は異型の弱い扁平上皮細胞が多数出現しているが、癌細胞と過剰に判定しないことがポイントである。肺扁平上皮癌のCISに比べ、癌としての多型性に欠け、クロマチンの増量も乏しく核が明るい。喀痰に出現する軽度異型もしくは中等度異型扁平上皮細胞に類似している。本症例は組織診(photo6)に示すごとく、層の厚い扁平上皮異型性病変からなる扁平上皮乳頭腫であった。肺扁平上皮癌(CIS)の擦過細胞像は、喀痰に比べて細胞質も広く核も明るいものも認められるが、核所見の多様性や中層から深層型の細胞集団が通常観察される。気管支擦過で癌以外で角化扁平上皮細胞が多量に認められることはまれであるが、上記の所見を鑑別点としていただきたい。